mayuge のヒマラヤ・トレッキング日記 Trekking TOPITINERARY<pastnext>
【5日目】 タンボチェ〜ペリチェ
The 5th Leg "Tengboche〜Pheriche"


 午前7時起床。空は薄曇りだ。歯を磨くにはあまりに水が冷たいので、キッチンから少しお湯を分けてもらう。顔も洗ってスッキリしたところで朝食。腹の具合はやや回復基調のようで、食欲もしっかりある。よしよしこれなら大丈夫そうだ。

 午前8時30分出発。タンボチェを出ると森林の中を下る坂道が続いていて、やがてその道はドゥードゥ・コシの支流、イムジャ・コーラ(Imja Khola)の川沿いに出る。ここからはまた登りだ。薄日が差してきた中、ロッジが一、二軒しかない村を二つ通りすぎると、吊り橋があった。これを渡ると、今度はイムジャ・コーラの反対側、この川を右に見ながら尾根を進んでいくかたちになる。このあたりまで標高を上げてくると、川の水量も一気に少なくなっていた。今までのように渓流のザーッという轟きは聞こえなくなっている。


暇なんだよねー、とでも考えているのだろうか
 徐々に高度を上げながらさらに進むと、トレッキング・ルートから外れた岩の上にボーッと座って日向ぼっこしている輩を発見。マウンテン・ゴートだ。寝そべって陽射しを浴びながら風の匂いを嗅いでいるその姿を見ると、昔飼っていた犬を思い出してしまった。

 途中、パンボチェ(Pangboche)という村に差し掛かったとき、突然ヘリコプターの轟音が聞こえてきた。どうやら、この村まで来たものの高山病でダウンしてしまったトレッカーがいるらしい。ヘリは担架を乗せるとすぐにまた飛び立っていった。

 こういうとき、費用が払われることが確認されないとヘリは出動してくれないというから恐い。それだけに海外旅行障害保険はマル必だ。僕の場合、救援者費用で500万円おりるタイプに加入しておいたので、まさかの時はヘリを呼んでも大丈夫だろう。

いよいよ未体験ゾーンだ
 午前11時30分、ソマレ(Shomare)着。標高4,050メートル。時折日が射すものの、少し前からは発泡スチロールのカスのような雪が降りはじめた。さすがに標高4,000メートルを超えると、足がなかなか前に進まない。熱いチャーで一息ついた後、高山病をケアしつつ一段とゆっくりとしたペースで進む。

 午後0時30分過ぎ、とうとうマユゲが未だかつて経験したことのない標高に突入した。標高4,160メートル。昨年の夏に登ったマレーシアのキナバル山頂が4,100メートル程度だったので、ここからはまさに「未知の世界」。いつなん時、体に変調を来たしてもおかしくないわけだ。

ロブチェ・コーラとイムジャ・コーラの合流点
 このあたりになって変化が見られるのは何も人間の体だけではない。先ほどまではひざ丈の植物が茂っていたが、気がつけばここではくるぶし程度の高さしかなくなっている。植生の限界点が近いことを窺わせる。

 景色もすっかり殺伐としたものになってきた。しかし地肌が露出してきている分、地形のダイナミックさをより感じるようになる。


宿の前からは氷河で削られた谷が一望できる
 午後1時30分、この日の宿泊地ペリチェ(Pheriche)に到着。

 標高4,260メートル。かつて氷河によって削られたと思われるU字型の谷が目の前に広がる。ややガスが立ち込めてはじめているが、前方遠くには氷河の白い部分を望むことができる。谷を吹き抜ける風が、今までになく冷たくなってきた。真っ昼間だが気温は摂氏6度を切っていた。

 この日の宿は『PUMORI LODGE』(プモリ・ロッジ)。荷物を部屋に降ろし、すでにストーブが炊かれている食堂に行くと、すでに何組かのヨーロピアンのグループがくつろいでいた。昨日から宿泊している人たちであろうか。我々も二度目の高度順応のため、ここペリチェで二泊する予定だ。

 午後3時、谷はさらに濃い霧に覆われはじめた。霧は谷の下のほうから上へ向かって登っていく。まるで霧が意志をもっているかのようで、薄気味悪いぐらいだ。窓の外は、霧と雪であっという間に真っ白になっていく。

 一方室内でも、ちょっと異様なシチュエーションが出来上がりつつあった。食堂の中央にあるストーブの周りには、ネパール人のガイドたちが仲間どうしで集まって暖を「占領」している。他の者が入り込む余地はない。その代わりに、ガラス窓沿いの冷たいベンチにはトレッカーたちがセーターやフリースを着込んでブルブル震えながら座っている。トレッキングする連中というのは、意外に押しが弱いのかもしれない。

 午後5時30分、食堂の寒さがさらに厳しくなってきたので、僕もたまらず部屋に戻ってアンダータイツを投入。さらにダウンジャケットも持って再び食堂に戻る。足にはタイツの上からナムチェで買ったヤクウールのソックスを重ね履きする。

 ネパール人ガイドどうしでの「座談会」が一段落ついたのか、ドゥンムラが僕のいる窓際のベンチのほうへ向き直って一言。

「You have to put on the down jacket」

 ストーブの前からよく言うよ(笑)。これで「客のケアもバッチリ」という、一仕事したような顔をしているから、ちょっと困ってしまう。


寒いんだよねー、とでも言いたいのだろうか
 少しずつ暗くなってきている窓の外を見ると、霧の中になにやら大きな動く影が……。気になってロッジの入り口にまわると、そこには二頭のバカでかいヤクがたむろしていた。白いのと黒いの。宿の兄ちゃんによれば、彼らはつがいのようで、いつも夕方になると風が直接当たらないこのロッジの中庭に、二頭揃ってやってくるのだとか。全身毛むくじゃらでも夜はさすがに寒いんだろう。

 そして今夜も、いかに退屈と折り合いをつけるかが問題となった。トレッカーどうしストーブから離れた「外野席」でおしゃべりを始める。

 イスラエル出身、ガタイのいいひげ面兄ちゃん。彼はガイドとともに今朝4時出発でカラパタールまで行き、ちょっと前に戻ってきたばかりだという。

 朝4時なんて真っ暗だろう、大丈夫だったのかと尋ねると、「ヘッドライトさえあれば全く問題ないさ。ただ、ガイドがイエティを恐がっていたけどね」といって笑っている。メチャメチャタフでハードボイルドな男である。とはいえ体力的には相当堪えたらしく、しばらくして彼は「I'm exhausted(クタクタだよ)」と言い残して部屋へ帰っていった。そりゃあそうだろうよ。これから僕が三日がかりで達成しようとしている行程を、たった一日でやり遂げちゃったんだから。「Have a good sleep, man!」

 次に話したのはオーストラリア出身の背の高い好青年、マイク。彼は以前アンナプルナ山域のトレッキングに、ガイドをつけて行ったことがあるという。しかし今回のソルクーンブ山域では単身で踏破中とのこと。

 もう一人はドイツ人23歳の男の子。彼は四人のグループに一人のガイドを伴ってカラパタールを目指している途中だという。その彼曰く「山の夜は退屈でしようがないよ」。全く同感だ。毛糸の帽子をかぶりっぱなしの彼に体の具合を尋ねると、昨夜から頭痛が始まったとのこと。高山病の初期症状だ。彼らは前日ペリチェ入りしたらしく、明日の朝体調がよければ次なる宿泊地ロブチェに向かうつもりらしい。もし頭痛の具合が芳しくなければ、さらにもう一泊するか、あるいはタンボチェまで降りるという。そうだね、こればっかりは慎重に判断したほうがいい。

 翻って僕はといえば、一度回復に向かったかと思われた腹の具合が再び「下降」傾向。頻繁にトイレへ通う状態になってしまっていた。トイレットペーパーも残り少ないし、困ったものだ。脱水症状を防ぐため、熱いチャーをズルズルとすすりつつ自らの回復を祈る、山中のmayugeなのであった。(つづく)

2001年3月25日(日)
Sun. Mar.25 '01
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