mayuge のヒマラヤ・トレッキング日記 Trekking TOPITINERARY<pastnext>
【3日目】 ナムチェ・バザール
The 3rd Leg "Namuche Bazar"


 午前7時40分起床。「快腸」な朝のおつとめの後、ロッジの食堂横にある小さなベランダから、通りの様子を見下ろす。

 あちこちの土産物屋が開店準備を始めているようだ。お向かいのおばちゃんも、夜の間は店内にしまってある商品を店先の平台に一生懸命並べている。昨日ソックスの値段を聞きに訪れた近くの店の女の子が「明日は金曜だから村中のお店はお休み。だから今日買わなきゃダメよ」なんて言っていたが、どこもちゃんと営業してるじゃないか。あの嘘つきめ(笑)。


ナムチェ・バザールの街並
 お向かいのおばちゃんが、二階のベランダで朝の光を浴びている僕を見つけて、「ほーら、今日も休みじゃないわよ」と声を掛けてきた。おばちゃんは笑っている。例の女の子がいった嘘を、おばちゃんは知っているのだ。

 空は、少しだけ雲があるものの快晴。ベランダとは反対側にある窓からは、青い空に映える白峰を眺めることができた。空気も澄んでいて、とても気持ちがいい。

 朝食にはドゥンムラも顔を揃えたので、この日の行動計画を相談する。昨夜の醜態はどこへやら、さっぱりした表情だ。天気のいい午前中のうちに、近くの見晴らしのいい丘に登ってみることになった。


キャイサとスロベニア兄ちゃんに説明するドゥンムラ
 午前9時50分、ロッジから15分ほど坂を登って、丘の上に立つ。途中、前夜に知り合ったスウェーデン人の女の子「ハイジ」ことキャイサに会ったので、一緒に登ってきた。ここナムチェは、他の村に比べ大きいとはいえ、広さにして700〜800メートル四方の小さな村。トレッカーたちの行程も毎日同じようなものなので、それまでのトレッキング中に出会った人間と顔を合わす確率も高い。パクディンで同宿のオーストラリア青年も見かけたし、ジョルサレで話した日本人の青年にも再会した。この丘に登ってくる間にも、キャイサのほかにもう一人、昨日の急坂で僕とデッドヒートを繰り広げたスロベニア人の兄ちゃんにも会った。彼らはみな、会えば「Hi!」と声を掛け合う、いわば「ハイ!フレンド」なのである。

中央に頭だけ見えるのが、あの「エヴェレスト」だ
 丘の上は360度の大パノラマ。東北東の方角には青い空をバックに、いきなりエヴェレストが見えた。これが僕にとって「人生初エヴェレスト」。何万年、何億年前の地層が斜めに筋を描くその岩肌が、くっきりと確認できる。介在する山々や距離の関係で他の山に紛れてしまっているが、その存在感はやはり一級品。トレッカー一同、しばしそのオーラに引き込まれる。みんな言葉もなく、ただその山を見つめていた。

 連泊の間にもこうやって丘に登ったりすることには、景色を眺める以外にも重要な意味がある。それは、「高度への順応」だ。こうして、荷物を背負わない楽な状態で標高の高い場所を経験しておくと、翌日のトレッキングで高山病にかかりにくくなるらしいのだ。

シェルパの子供たちはよくお手伝いをする
 空は快晴であるものの、丘の上は風が吹き抜けるので体感温度は相当低い。エヴェレストの姿に見惚れていた我々も、そこを離れることにした。この丘にある「国立公園博物館」を少しだけ覗いてから宿へ向け丘を下りていく。

 すると籠を背負ったシェルパのかわいい子供たちが、こちらの顔を覗き込みながら横を通りすぎていった。挨拶の声を掛けるが、彼女たちは恥ずかしそうに駆け下りていってしまった。「???」。背負っているのがヤクの糞を乾燥させたものだったので、それが恥ずかしかったのだろうか。

 宿に戻ってからは、お隣り『EVEREST BAKERY』のテラスでティータイム。メンバーは、スウェーデン人のキャイサとスロベニア兄ちゃん、さらに居合わせたアメリカ人のキャリアウーマンさん。さらに、身長180センチ体重70キロはあろうかというもう一人のスウィーディッシュ・ガールも加わった。ポカポカと気持ちいい日光のもとで、しばし旅行談義――。

 スロベニア兄ちゃんは「一人きりの新婚旅行」でトレッキングに来ているという。なにそれ?と思って聞いてみたら、出発の直前に奥さんの妊娠が分かり、「私はいいから、あなた一人で行ってきて」ということになったらしい。それはそれはおめでとう。でもちょっと寂しいねえ。

 30代後半といった年格好の米キャリアさんはインドを訪れた後、ここネパールに来たという。ダラムサラでは、あのダライ・ラマ14世に会うことができたらしく、「彼ったら、とってもキュートなのよ」と、ややしわの存在を否めなくなった目尻を下げて熱弁。それぞれいろいろと「ご事情」があるんだなね。


見覚えあるでしょ、この形?
 ドゥンムラが僕を探しにきたところで宿に戻る。そろそろ昼食の時間なのだ。この日は初の「モモ」に挑戦。

【用語解説】 モモ(Momo)
 ネワールスタイルは丸いシュウマイ型だが、チベットのモモは中国や日本のぎょうざの形で、蒸したものが一般的。中味は、野菜やヤクの肉、ヤクチーズなどいくつかの種類がある。

 皮がモチモチしていて、チャーなしでは喉が詰まってしまいそうなのだが、味はベリーグー。どうしても醤油が欲しくなってしまうのだが、ここではケチャップで我慢。

 食後は、昨日寒すぎて浴びれなかったシャワー。ところが、頭を洗っていたら突然お湯がストップしてしまうハプニングが発生。日中とはいえ、木製のシャワー小屋には冷たい風が吹き込んでくる。慌てて全身泡だらけの状態でロッジの人を呼び、シャワーを「追加」してもらうことになった。山中のロッジでは、沸かした湯をシャワー小屋の上に設置されたポリタンクに注ぎ、そこから出ているホースを通ってシャワーが出る仕組みなのだ。そして一回いくらと値段が決まっている。ナムチェより先は、シャワーに限らず、標高とともにあらゆる物の値段が跳ね上がっていく。湯を使うペースも気をつけなくちゃ、だな。

 シャワーでさっぱりした後は、たまった洗濯物を片付けなくてはならない。斜向かいの店の看板にランドリーサービスという文字があったので聞いてみたが、洗濯機が故障中でかなり時間がかかるという。それではと宿のキッチンから洗面器を借りて、村の洗い場へ出掛ける。ここは村民共同の水利用スペース。先客の地元のシェルパ少年と並んで、平らな石の表面と洗面器を駆使して洗濯を開始。


mayuge、まだまだ元気です
 水は指がちぎれそうになるほど冷たい。長い間手を水につけていられないし、乾かすのも大変なので、洗うのはパンツとソックスなど最小限のものにとどめる。まだそんなに長く着ていないTシャツは乾かしてそのまま使おう。この先は女性でさえシャワーを浴びられないところへ行くんだ。こうやって少しずつ山の生活に慣れていかねば。そんなことを考えながら洗濯をしていると、隣でやはり悪戦苦闘している少年と目が合った。僕が「この水冷たいねー!」というジェスチャーをすると、意味が通じたらしく彼は頷きながら笑顔を返してくれた。一年前には、こうして自分がヒマラヤの山中で地元少年と並んで靴下を洗うことになろうとは、予想だにしなかった。そう思うと、余計に笑みがこぼれた。(つづく)

2001年3月23日(金)
Fri. Mar.23 '01
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