mayuge の視点 2000 INDEXpastnext

マユゲの夏休み 〜第八章「深呼吸」〜



 午前6時40分にキナバル山頂「ロウズ・ピーク」より下山を開始、明るくなった岩場を軽快に降りてゆく。すると、ラバンラタにいたアジア系ギャル2人組もちょうど同タイミングで降りて来ていた。 相変わらずキャッキャ、キャッキャやっているが、ちょっと手をつかないと降りられないような岩の段差に来ると、とたんにしり込みして、泣きっ面モードになる。やっぱ女の子だねー。頑張れ、香港ブーツ1号・2号。

 登りのときは、シルエットしか分からなかった「セント・ジョンズ・ピーク」も、今は太陽の光を受けてその雄々しい姿を目にすることができる。

登るのキツそー。

 空は快晴。おてんとう様パワーで、気温も"目に見えて"上がってきている。空気もとても澄んでいて本当にいい気分だ。It's gettin' warmer and warmer, isn't it? ねえ、コンちゃん(ガイドさん)?

 しばらく降りると「サウスピーク」が見えてきた。このトンガリだけは、往路では暗くてよく見えなかったが、こうして見てみると、実に美しいフォルムをしている。その先に見える山々は、なんと100キロも先にあるのだという。

へぇー、すぐそこって感じするけどね。

 一方、後ろを振り返ってみると、

雲に隠れていた太陽が顔を見せはじめているでないの。

 右側の2本突き出たトンガリが「ドンキーイヤーズ・ピーク」。「ロバの耳」と表現するところに、「海外」を感じてしまう。日本だったら、ロバは出てこないだろーな、ロバは。「兎岳」とかになってたんかな。やっぱそれだとなんかピンと来ないっスね。

 左側に見えるのが「アグリー・シスター・ピーク」。醜い妹のトンガリ!?  そんな風に見えないんだけど。ちょっと意味不明。なにか伝承的なものがあるんだろうか?

 「???」となりながらも、再び下に向かい降りていく。と、いつの間にやら香港ブーツ1号・2号が既にサウス・ピークを背に記念撮影してるでないの。

イエーイ、ってか?

 負けてなるものかとマユゲも先を急ぐ(全然急ぐ必要なんかないんだけどね)。彼女たちの足元、すぐ後ろに見えるのが、例のロープである。登山ルートを指し示すとともに、いざというときの命綱になるのだ。別に転げ落ちたわけではないが、マユゲも往路では、ところどころ急な斜面で大変お世話になった。

 今は日も昇りつつあり、岩場もだいぶ乾いてきて随分歩きやすくなった。しかし、一見乾いたように見える「苔」の上にうっかり足をのせたりすると、恐ろしいほど滑るのだ。ザザザッッ!!! うわっ! 慌てて体のバランスをとり、なんとか転ばずに持ちこたえる。ガイドさんもそれを見て、ハッとした顔でこちらに助け寄ってくれた。オーケー、(とりあえず)no problemです。

 「No water,but slippy」

 そうだね。気をつけます。ビックリしたよ、俺も。油断は禁物、肝に銘ずべし。この後しばらくの間、滑りやすい岩場ではガイドさんが先導してくれた。

細かくステップを踏むべし。

 標高にして数百メートルは降りてきただろうか。振り返ると、ロバの耳が先ほどとは違う角度で見える。よく聞け、耳よ。

「さらばぢゃ」

 下りで振り返り、登ってきた山を見上げるのは何か淋しいものがある。富士山のときもそうだった。もう一生この山に登ることはないのだろうか。そう思うとしばらくその姿に見入ってしまい、そこを動くのが辛くなってしまうのだ。山との出会いも、一期一会。この雄大な光景を、この新鮮な空気を、この足元のゴツゴツとした感触を、思う存分楽しんでやろう。

 そう思いなおし、再び足を踏み出す。

ロープを使って、


ときには後ろ向きで、


こんな斜面を、


降りるわけです。


 中央右上で腰砕けになっている白ウエア黒帽子&赤バンダナが「ホンブー」1号2号。本格的な泣き顔で渋滞を巻き起こしている。でも見上げてみると、よくもまぁこれを登ったもんだわ、とつくづく思う。しっかりロープに掴まるんだぞ。決して下は見るなよ。エールを送りつつ、彼女たちに別れを告げ、マユゲはラバンラタへ向かいさらに歩を進める。

 ロープはここまでで終了。さあ、ここからは樹林帯、階段状の砂利道を降りていくことになる。ひざの負担を少なくするためにも、腿筋・ふくらはぎ筋を使っていくぞ。

樹林は樹林でも針葉樹林。

 富士山の森林限界付近にも良く似た風景だ。日の射す角度、木々の張り出しもあってか、ここあたりだと、まだまだ地面は濡れたまま。スリップやひざ痛対策のため、ジグザグに斜めに下っていく。

 そして午前8時、山頂を出発して1時間20分でラバンラタに帰着。同じ距離でも、登りは2時間30分近くかかったわけで、当たり前だが下りのペースは相当早い。ここラバンラタでも富士山頂並みの標高だから、それなりに酸素は薄いはずなわけで、息が切れてもよさそうなもんだが、不思議と下りでは息が切れることはない。登りは5分登っただけでゼーゼーハァーハァーだったのにな。あれだけ辛い思いをしただけあって、体が徐々に薄い酸素の状態に順応していったんだろう。マラソン選手の高地トレーニングってこういうことなんだな。

 さてさて、部屋に戻り荷物を降ろし、食堂で朝食だ。天気もいいし、すがすがしいなー。食後は、明るくなったテラスに出てみた。

眼下には一面の雲海。

 これを体験しにきたといっても過言ではない光景。コーヒーカップを手に、しばし心の深呼吸を楽しむマユゲであった。 (つづく)
2000年8月16日(水)

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