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マユゲの夏休み 〜第七章「to the peaks」〜



2000年8月16日(水)

 午前2時、ズボンのポケットに入れておいたケータイのブルブルで目覚める。ドミトリーだからうるさくしちゃ同部屋の人に悪いからね。俺ってアッタマいー。それにしても、寒かったなー、やっぱり。いっぱい着込んでおいてよかった。

 しかし、ふと、寝るときもつけたままだった腕時計を見ると、あれっ、まだ1時!? そうか。成田を発って以来、用なしだったケータイの時刻は時差調整してなかったわけです。なんだよー、あと1時間あるってこと?スゲー半端。俺ってアッタマわりー。食堂は2時からだからな、まだコーヒーも飲めないもんな。

 それでは、と得意の二度寝! とは思ったものの、なかなか寝つけない。二段ベッドの上段で左右に寝返りをうち、再び毛布でグルグル巻き状態になり、再就寝の準備をしてみる。こういうときって、なかなか寝つけずにいて、あと15分で起きる時間だよ、なんて考えた瞬間意識を失い、目が覚めてみると取り返しのつかない時間になっていて、寝癖アタマで目をひんむく、というベタなパターンに追い込まれるのが常。そんなこと考えながら、、ウトウトウト……。すると、

 「ピーピーピー」

 保険でかけておいた腕時計のアラームが鳴る。助かった、起きれた。今度は本当の午前2時。でも、結局音出しちゃった。スンマソーン、起こしちゃったかな? しかしルームメイトは誰も起き出す気配はない。いーのかな、みんな、起きないで。俺が早すぎたのかな?

 そーっと二段ベッドから降り廊下に出てみると、そこはひんやりとした空気。一気に目が覚めた。チラホラと起き出している人も見受けられて、少しホッとしたり……。共同洗面所で顔を洗い、階下の食堂へ。食堂にはまだ5〜6人しかいないが、営業は始まっているようだ。カウンターで夜食のメニューを見つつ、「スクランブルエッグwithトースト」というのとコーヒーをオーダー。

 5分ほどで「馳浩(はせひろし)」がマユゲが座るテーブルまで、注文した品をもって来てくれた。本当にトーストの上にスクランブルエッグがのっかって出てきた。うそはない。確かにうそはない。でも、なんかがっかりしてしまうのは何故? ところがところが塩をかけて食べてみると、これが結構イケる。ポットでサーブされるコーヒーも体を温めてくれて首尾上々。パワーがみなぎってくるね。

 一通り食べ終わり、食堂に隣接するテラスに出て、異国高地での朝の一服を決め込む。月明かりでうっすらと照らし出される山頂付近を望み、しばし一仕事する前の男の雰囲気を醸し出したりしてみる。でも寒っ。コーヒーが温めてくれた体がまた冷えてしまった。トイレいっとこ。

 ハミガキも済まし、部屋に戻ると、向かいのベッドのカップルも活動を開始していた。マユゲの下の段で寝ていたはずの「マウントフジ」クンの姿はない。ヤツもメシ食いにいったかな。

 ここラバンラタレストハウスのチェックアウトタイムは午前10時。つまり山頂から戻ってきて、また部屋に入れるわけである。そのため、山頂に向かうのに必要な最小限の荷物だけザックに詰めればいいはず。しかし同部屋のカップルの荷物はやたらデカい。すこし不安になったマユゲ、カップルの男の方(銀髪クン)に聞いてみる。チェックアウトは10時でいいんだよね? また部屋に戻って来るでしょ?  そうだって。そうかキミは彼女の分も荷物持ってあげるわけね。ナットク。

 再び階下に降りると、マユゲのガイド、コゥンギンさんもスタンバイしてくれている。一服したら行こうか?

 3時05分、山頂へ向けラバンラタを出発。雨は降っていないが、暗い山道は昨日の雨で濡れている。

足元には充分注意が必要だ。

 昨日にも増して急な勾配をリズムよく登ってゆく。息は切れるが、今日は食事もバッチリ、足取りは確かだ。しばらくは、木の板で作られた階段や、岩でできた階段をよじ登るコースが続く。やがて樹木がなくなり、完全な岩場に差しかかった。ここからは足元にロープが置かれている。急な斜面では、これにしがみつきながら登っていくわけだ。

濡れた岩場は結構危険。

 一歩間違えば、まっさかさまに落っこちかねないような難所もある。この「気を抜けなさ加減」がたまらなくいい。やっぱこうでなくちゃ。ハァハァと息を切らしつつも、気分は上々だ。

みんな目をマジにして足元を見ながら登っていく。

 出発から約1時間、くねくねとした狭い山道を抜けると、広い岩場状の斜面に出る。まっすぐ上に登っていくと勾配がきつい。そのため、ロープは一直線に降りているが、それをまたぐ形で、ジグザクに登坂コースをとったりしてみる。うん、歩く距離は増えるけど、これなら息も楽だ。

 まだ太陽が昇るには早いのだが、意外に足元は明るい。富士登山のときに購入したヘッドランプを着用してきたが、ここで御役御免、ザックにしまう。樹林帯ではその効力を存分に発揮してくれた。おつかれさんだね。

そう、今日は満月なんです。

 富士山のときも満月だったな、そう言えば。ちょうど一ヶ月前か。月明かりに照らされ「セント・ジョンズ・ピーク」が浮かび上がる。威厳に満ちた風情。ちっぽけな登山者を圧倒するかのような迫力だ。

 キナバル山の山頂部は、ギザギザ状になっていて、ピークと呼ばれるいくつかのトンガリがある。途中、そのトンガリのいくつかを目にすることができる。暗くて写真には写らなかったが、「ドンキーイヤーズ・ピーク」という「ロバの耳トンガリ」もうっすらとその姿を見せた。

 その中で最も高いトンガリが「ロウズ・ピーク」といって、そこが標高にして4,101メートル。 我々はそこを目指して登っているわけである。途中休みをとりつつも快調なペースで登っていくと、次第に空がうっすらと明るくなってきた。

コタキナバル市街の灯りも見える。

 だいぶ登ってきたものだ。ここまで来ると先ほどの「セント・ジョンズ・ピーク」も見下ろす感じになっている。4,000メートルまで達しただろうか? 斜面に寝っ転がり、星空を見上げながらガイドさんとしばし団欒。気温はだいぶ下がってきているようだが、体は熱く、ひんやりとした空気が気持ちいいくらいだ。

 起き上がって、また歩を進める。すると空はさらに明るさを増し始める。

もはや「セント・ジョンズ・ピーク」も完全に眼下。

 目指す「ロウズ・ピーク」も、もう目前。よーしラストスパートだ。さらに険しさを増す岩場を、手をつかいながら懸命によじ登る。

 そして午前5時40分、ついに「ロウズ・ピーク」頂上に達する。

これが山頂!

 アイ、ガレ(I got it)! (※缶コーヒーでお馴染みの「ガティ」ではありません) やったぜーーー!!! 感動の瞬間。疲れているはずの体中に力がみなぎってくる。

 高い山がある。そこのてっぺんに登る。

 考え様によっては無駄とも言える、このとても単純な行為に文明国の人はとりつかれる。シンプルな分、いいんだよね、きっと。しばし、360度の大パノラマを堪能――。

月も小さくなっちゃった。

 富士山と異なり、頂上部は僅か2畳程度の狭いスペース。登ってきた人々がかわるがわるそこに立ち歓声を上げる。マユゲは頂上の一角に腰を下ろすと、汗でびっしょりのTシャツを着替えた。ここでお約束のリベT掲揚も実施、写真もおさえた。

 明るくなると、グロテスクなまでの岩肌が露になる。楽しみだった雲海もバッチリ見える。

大自然って感じでしょ。

 ガイドさんたちは、山頂より少し低い位置のやや平らな場所で登山者を待っていてくれる。

ガイドのコゥンギンさん(緑帽)もマユゲを祝福。

 約40分ほど山頂からの絶景を堪能したのち、下山を開始する。そう言えば、自分の写真撮ってないな。ガイドさん、撮ってもらっていい?

マユゲ、ここでもオノボリサン。

 振り返って、今登ってきたばかりの「ロウズ・ピーク」を見上げる。

 ゴツゴツとした岩を積み上げたかのようなその姿。昇りつつある太陽の光を真横から受けて、その迫力は一層強力なものに。斜面と山頂部に見えるツブツブが登山者。すごい光景でしょ? その光景を見るにつけ、あれを登ったんだ、という超ジコマンな充実感が深まる。

 やった。やったぞーーーー、俺はーーーあーぁー。でも叫ぶのはやめておいた。さーて、下山も気を抜かずに行くぞ。(つづく)
2000年8月16日(水)

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