mayuge.net > feature & archives > person | home | feature | column | BACK |

 受講生インタビュー 
「遅く過ぎる時間」を感じたい
『編集・ライター養成講座』受講生
鹿島弓子さん

 編集者としてのステップアップを目指して勉強中という鹿島さん。彼女が感じてみたいという「遅く過ぎる時間」とは、どういうことなのか。普段はポーカーフェースに見える彼女の本音に迫ってみたい。
(構成・文●阿部憲二)

■NO REASON

 弓子が仕事として編集の道を選んだのは、何もたいそうな理由があったわけではない。それは自然な選択だった。
「今思えば、学生の頃、通信教育で校正の講座を取っていた時点で、たぶん編集者になりたかったんだと思う」
 受講し始めた理由は自分でも記憶にないという。
 大学の就職課から斡旋され、一度は銀行に勤めたものの、一年ほどで退職。転職を考えた時、弓子の目は自然と編集関係の求人に向いた。そして弓子は、ある編集プロダクションに入社した。
■DEBUT

 入社して二ヶ月ほどのある日。上司から取材に必要な切符の手配を頼まれた。
「はい。何人分ですか?」
「なに言ってんの。あなた一人だよ」
 それは、編集者・鹿島弓子の初仕事だった。ある電機メーカーの社内報。そのなかに実業団陸上部の活動を紹介するページがあり、弓子は合宿の様子を取材しにいくことになったのだ。
 行き先は菅平。新米編集者は、たった一人で新幹線に乗り、見知らぬ土地のバスを乗り継いで合宿所に飛び込んだ。
 取材から入稿まで一人で何でもやる仕事。この時も、インタビューだけでなく写真も撮った。
「走っていく選手をね、カメラを持って、ハアハア言いながら追いかけたよー」
 無我夢中のデビューを振り返りながら、弓子はその大きな瞳を輝かせる。
■SLOW TIME

 会社の先輩に、ある素敵な女性がいた。デザイナーをしている人だった。
「年はたぶん四十くらいかな。肌がツヤツヤですごく若々しいの。編集デザインだけじゃなくてディスプレイやウェブなんかもやるのね。しかも趣味が十ぐらいあって、どれも極めてる。イタリア語を始めたと思ったら、もう話せるようになってるし、料理もプロ並。フラワーアレンジメントもやればバイクにも乗る」
 弓子の耳には、その人の言葉が今も残っている。
「時間って流れるの遅いよ。みんな、もう三十、もう四十だって言うけど、毎日楽しく生きてるとね、十年なんて超長いよ」
 その言葉に強く納得した。同時に、こう生きるとこうなるという、一つの見本を見た気がした。
 自分も「時が過ぎるのが遅い」という感覚を感じてみたい。いつの間にか時が過ぎ、寂しい思いで振り返るのは嫌なのだ。
■RESTART

 先輩と同じことを自分ができるかは分からない。同じことをするのがいいとも思わない。それでも弓子は、すでにいくつかのことを始めている。編集者やライターを養成する講座に通い始めたのだ。
「何も知らずに編集の仕事を始めて、変な癖がついた気がするのね。ホントは文章ってどう書くんだろう? 編集者の仕事ってホントはどんなものなんだろう?というのが知りたくて」
 受講生仲間でウェブサイトも立ち上げた。そこで自分の文章を発表し始めている。
「笑わせたいとも思うし、ちょっとひねって哀愁を漂せたりもしたい。でも、難しいよね」
 弓子はそう言って楽しそうに笑う。彼女にとっての「遅く過ぎる時間」は、実はもう始まっているのかもしれない。
(文中敬称略)
鹿島弓子(かしま・ゆみこ=仮名)
東京都出身。都内の大学を卒業後、銀行員を経て編集プロダクションに三年半勤務。退職後、現在は叶體`会議主催『編集・ライター養成講座』を受講中。今ハマっているのは「お屋敷めぐり」。好きな有名人は、TETSUYA(ドリアン助川)。「何でも笑いにできる人ってすごいと思う」。

※その後鹿島さんは、同講座の卒業制作で最優秀賞を受賞されました。
『無色会議』2004年2月21日掲載記事
▲TOP
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送