mayugeのダラダラ放浪紀 アジアとヨーロッパにまたがる国。トルコ (Turkey)

「マルマリス」篇 (Marmaris)


 姉さん、こちらはあったかいです……

 5月26日(土)の夜は、石灰棚の街パムッカレにて一泊。ホテルの夕食に舌鼓を打つ。ガイドブック触れ込みの「奥さんのおいしい家庭料理」は、その奥さんこそ不在であったものの、なかなかの「おいしさ」、そして「量」であった。

 翌5月27日(日)、パムッカレを発つ。バスのチケットを手配してくれた地元旅行代理店のおじいさんは、彼の事務所である小屋の前で見送りをしてくれた。大規模なオトガルがあるデニズリまでのローカルバスに乗るときも、運転手にひと言ふた言注意を与えてくれていた様子だ。じいちゃん、ありがとね。

 デニズリからは長距離バスで港街マルマリスへ向かう。翌日はこの街からトルコを出国する。海路で国境を越えるのだ。バス出発前の待ち時間は、バス会社のオフィスでチャイをご馳走になってしまった。トルコの人々は、相変わらず気さくに声を掛けてくれ、茶を振る舞ってくれる。「まま、そこ座って。チャイ飲むだろ? いやいやご苦労さん、次はマルマリスかい。何? 初めて? そうかい、いいとこだよ、海がきれいでね」。そんな雰囲気なのである。我々が暮らす土地では失われてしまって久しい、「人情」のようなものが感じられる。

 あったかいね、このチャイ。

 姉さん、こちらはもう夏です……

 デニズリからマルマリスまでは、バスで南南西に約三時間半の道のり。長時間のバス移動に慣れてくると、この程度の距離は正直いって近い。マルマリスのオトガルから市街へはバス会社のセルヴィスで移動。降りると目の前には「タンサシュ」という巨大スーパーマーケットが建っていた。バーガーキングなんかもある。銀行や両替商なども多く、人通りが非常に激しい。この街は週末らしく大変な賑わいであった。


すっかり夏の海の雰囲気だ
 なかでも目につくのが、西洋人の多さ。家族連れや老夫婦、若いカップルなど青い目の人々が短パン・タンクトップ姿で闊歩している。この街は地中海に面する港街であると同時に一大リゾート地なのだ。夏の海辺のような開放的な雰囲気を新鮮な気持ちで味わいつつ、海岸線沿いに五分ほど歩くと、ツーリスト・インフォメーションがある。

 のんびりとした雰囲気のツーリスト・インフォメーションで翌朝のフェリーチケットを買い求め、ホテルも紹介してもらう。紹介されたのはユースホステル。五分ほどで迎えの人が来てくれた。「ハイ! ハワーユ?」と元気な声で手を差し出す彼は、背が低くずんぐりむっくりとしたおでぶさん。人なつっこい顔の下半分は、二日前に剃ったという感じのヒゲに覆われている。ニューヨーク・ヤンキースのベースボールキャップからは縮れた長髪が飛び出す。ハンバーガーを頬張るのが凄く似合いそうである。でも彼はなんとも気持ちのいい青年なのだ。迎えに来てくれてありがとうと礼をいうと、「ううん。かまわないさ」と明るく答える。そしてのっしのっしと先導して歩いて行く。ユースの従業員である彼は、道すがら通りや店の簡単な紹介をしてくれたりもする。もちろんユースの料金やルールの説明なども汗をかきながら一生懸命話してくれた。

 姉さん、部屋にブラジャーです……

 ユースのレセプションは、商店街のとある店先の階段を上がった二階にあった。ドミトリーのベッドをひとつ頼んでキーをもらい部屋に行ってみる。と、まず驚いた。いきなり正面の窓のところに黒いブラジャーが干してあったのだ。面食らって思わずドアを閉める。俺、部屋間違えてる? キーホルダーにあるナンバーとドアのナンバーを再度確認する。合ってる。男女同部屋か。そういえばさっきヤンキース帽の兄ちゃんいってたっけ。もう一度扉を開け、入口に立って部屋を見渡す。誰もいない。ベッドは全部で四つ。そのうち二つは誰かに確保されている様子だ。だらしなく開けっ放しのバックパックがベッドの横に投げ出されていて、キャミソールのような服がベッドの上に無造作に置かれていたりもする。どうやらカップルか、ギャル二人組のようだ。それにしても男女同部屋のドミトリーに泊まるような女の子は度胸が違う。下着なんか見られてもどうってことないと言わんばかりの放っぽり様だ。でもさ、それで気まずくなる男の気持ちも考えてちょうだいよってーの。

 そそくさと部屋に入ると、不自然なほどにそちらを見ないようにしながら荷を降ろし、その夜と翌日に必要となるものを取り出す。そして自分が確保したベッドの上に、それらをきれいに並べてみる。「女=きれい好き、男=だらしない」というのは嘘だね。見てみ、このベッドの違い。一応マユゲが部屋を出てからそのルームメイトが帰ってくる場合を考え、「ここには今晩男が泊まるぞ、いいな」というかのように、ややこれ見よがしに髭剃りとパンツを目立つところに配置してみた。これでよし。奴も気づくだろう。見られて恥ずかしければ自分の下着を片付けなさい。こうして、気がつけば「下着見せ合戦」に巻き込まれていた。


マリーナにはカフェが建ち並ぶ
 午後は翌朝の出航にそなえ、下見がてらフェリーの船着場やマリーナのほうまで散策に出掛けてみる。オープンエアのカフェが建ち並ぶマリーナには相当な数のヨットが停泊していた。青い空を背景にたくさんのマストが並木のように立ち並んでいる様は、ここが、まだ見ぬ地中海へと続く道の入口であることを感じさせる。

 そのなかのとあるカフェに入り、読書をして夕方までの時間を過ごした。明日いよいよギリシャのロドス島に渡ることになるので、塩野七生著『ロードス島攻防記』を読み返していたのだ。中世の時代にキリスト教徒とイスラム教徒の間で戦われた激しい攻城戦。東地中海における要衝であったその島は、ここから現代の高速艇で一時間にも満たない距離にあるのだ。あの男たちのドラマが繰り広げられた地がすぐそこにあるのかと思うと、胸が高鳴るのを感じることができる。同時に、なんだかとても贅沢な時間の過ごし方をしているということを、つくづく感じる。

 姉さん、注意です……

 夜は商店街にあるロカンタで夕食。今日は何となくワインを飲みたい気分だったが、そんな気の利いたもの、安食堂にはないわけでいつも通りビールで一人乾杯。

 ホテルに戻ってシャワーを浴びる。部屋の様子からするとまだルームメイトはどちらも帰ってきてないようだった。ロビーで一服していると、ヤンキース帽の兄ちゃんと、この宿の常連らしきヨーロピアンの男の子がやってきた。男の子はティーンネイジャー卒業したてといった年頃だ。最初は社交辞令程度で日本についての質問をしてくれていたのだが、ふとしたことで話題が「箸の使い方」におよぶと、二人は俄然ノってきた。ヤンキー帽の兄ちゃんは以前に日本人の女友達からもらったという箸をどこかから引っ張り出してきて、使って見せてくれと急かす。適当に煙草や紙屑をつまんで移動させると、これが思ったより驚かれる。男の子は俺にもやらせてくれというなり、カチャカチャと音をたてながら煙草と格闘する。それを見ていたヤンキース帽兄ちゃんも、「だめだめ俺に貸してみな」とばかりにトライする。彼はこの箸をプレゼントしてくれた娘から使い方を教わったことがあるらしい。しかし、にっちもさっちも行かなくなると、また順番がマユゲにまわってくる。するとまた「Ohhhーーー!!」。なんかちょっといい気分である。調子にのって、「日本人はね、米粒ひとつひとつを箸でつまめるんだぜ」とひけらかすと、信じられんという顔をして驚いていた。こちらの「西洋猿」たちにとって、箸を扱う「東洋猿」は相当珍しい生き物と映るらしい。


 こうして男が三人集まると、話題はいつしか女の子の話になるものである。その中でヤンキース帽兄ちゃんが話していたことが少々ショッキングであった。

 このユースホステルには何度か日本人の女の子がやってきたという。そしてそのうちの何人かが同じようなトラブルを起こしたらしい。街中でトルコ青年にナンパされてノコノコついて行き、ホテルの門限を破って心配を掛けているというのだ。一度などは、食事をして酒を飲んで「僕の家に行こう」といわれて断れず、バイクの後ろにまたがって途中まで来たものの、怖くなって逃げ、深夜にガソリンスタンドからホテルに泣きながら電話をしてきた娘もいたという。帰りが遅いことを心配して起きていたホテルのオーナー(兄ちゃんのボス)が車で迎えに行くと言っても、自分がどこにいるかさえも分からないといった状態であったらしい。

 まったく呆れる話である。しかもそういうったトラブルを起こすのは日本人の女の子だけだというから恥ずかしい限りじゃないか。日本だと声を掛けられることもないような「地味」、もしくは「あまり美人ではない」娘が、もの珍しさや話のネタや単純な性欲というきっかけで声を掛けてきた男を「あっ、なんか親切な人(ドキッ)」だと思ってしまったり、「えっ、もしかして私イケてる?」なんて舞い上がってしまったりすることは想像に難くない。いや、むしろ凄くありそうなことである。実際にマユゲも今まで訪れた世界の各地でそういう光景を目にしてきた。とにかく日本人女性は他に類を見ないほどのガイジン好きだし、どの国のガイジン男性もそのことをよく知っている。

 他人の「好み」についてとやかくいうつもりはないが、やっぱり我々“以心伝心の国”日本人は「自己責任」「責任範囲」の考え方という部分で「ぬるい」と自戒を込めていわざるをえない。もちろん「日本のこころ」というのはとても味わい深いもので、大切にしたいと思うのだが、ひとたび「島」を出たときにはそれが通用しないことが多々ある。それだけに我々が「島」を出るときは、ちょっとした頭の切り替えが必要になるのかもしれない。海外で目を細められ鼻をつままれる日本人の多くは、「島」の常識のまま歩いている人たちなのである。「自分は自分」。それも結構、それも大事。だけどちょっとだけ俯瞰して、まわりの人を含めて自分を見ることも必要なのだろう。 「When in Rome, Do as the Romans do.(郷に入りては郷に従え)」。洋の東西を問わず、昔の人というのは実に含蓄に富んだことをいうものである。


 部屋に戻りベッドにもぐってしばらくすると、ルームメイトの一人が帰ってきた。軽く挨拶を交わしたのだが、あの黒ブラジャーの持ち主は、なんともあどけない顔をした金髪のお姉ちゃんであった。彼女もまたティーンか、ティーンを卒業したてかといったお年頃。露出度の高い格好で、しっかりと夜まで遊んできたようだが、その態度と会話のこなしかたは、下着と同様、とても大人びたものであった。

 むむ、西洋娘、やるじゃないか。マユゲ、ちょっと感心。


2001.05.27 マルマリス International Youth Hostel にて

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