mayugeのダラダラ放浪紀 アジアとヨーロッパにまたがる国。トルコ (Turkey)

「アンカラ」篇 (Ankara)


 ちゃずき

 5月21日(月)、トルコ共和国の首都、アンカラでの一日が始まる。この街は、東西に長いトルコ国土の中央部に位置する。古くからアナトリアと呼ばれてきた地方だ。今夜の夜行バスでさらに東のネムルトへ向かうわけだが、ただここを中継点として通過してしまうのもなんなので、宿泊したウルス地区を中心に少し歩いてみることにした。

 少しひんやりする朝の空気のなかブラブラと大通りまで出ると、通勤・通学の人たちだろうか、結構人通りが多い。さすがは首都、チャナッカレとは違って都市型の生活スタイルが繰り広げられていた。むむ、こういった忙しそうな人たちのなかに入るとちょっと気後れするな。「ド平日」のラッシュアワーに、このだらしない格好だしな。むむむむむ……。

そんな中でまずは朝食。道端の屋台で、表面にゴマのびっしり着いたパンを買い、銀行前の階段の端に腰掛けて頬張る。すると、マユゲと同じように、行き交う人々とは違うリズムで生活する人たちがいることに気がついた。店の前の道や、歩道のちょっとした木陰なんかで、じいちゃんたちが朝から茶飲み話をしているのだ。皆、手には小さなチャイのグラスを持って、煙草をぷかぷかやりながら、くっちゃべってる。日本だとこういった井戸端ミーティングは女性陣の専売特許といった感じだが、こちらではご隠居のじいちゃんたちが主流のよう。その楽しげな様子からすると、朝から鬼嫁に「もう、おじいちゃんったら、そんなところにいたらお掃除の邪魔じゃないの!」なんて追い出されたわけではなさそうだ。よかったよかった。

 そういえば俺もチャイ飲みたいぞ。でもどこで買うわけ? なんて思っていると、手提げ型の銀盆を持った黒服の兄ちゃんが、じいちゃんグループのまわりを、注文とったり、グラスを片付けたりしながら歩いているのが目に入った。ははーん、これがトルコ名物のチャイジュ(チャイ屋さん)か。

 ぶらりと家を出て、友達に会って、道端のベンチに座って、くっちゃべる。するとどこからかチャイジュが現れてお茶を運んできてくれる――。

 これが普通ってところがいいよね。それにしてもトルコの人はホントにチャイをよく飲む。グラスが小さいとはいえ、一日に十杯以上なんてのもザラだとか。その都度ダベってたら、いつ仕事すんのよ?って思っちゃう。


 アンカラ、ウルス地区を歩く


赤い屋根が丘を埋める
 そのまま座っていると歳をとりそうだったので、行動を開始する。

 このあたりはかつてローマ帝国の領土であったわけで、ここアンカラにはその時代の遺跡がちらほらと残っている。詳細な地図を持っていなかったので多少迷ってしまったが、ローマ浴場跡(休みだった……)、ユリアヌスの柱、アウグストゥス神殿といったところを見学。この神殿は小高い丘の上に建っていて、その前にある公園は風通しがよく、ベンチに座っていると実に気持ちいい(物乞いの家族がウロウロしているのには閉口したが)。

 ここから見るアンカラ市街の風景がまたなかなかのもの。水色の壁と赤い屋根の家が、なだらかにうねる大地にびっしりと広がっている。何か決まりがあるのだろうか、色が統一されているのが印象的だ。

丘の上に城が見える
 そのまま目を南東の方角に向けると、丘の上に何やらお城のようなものが見える。ガイドブックによればこれがアンカラ城らしい。地図をもとに肉眼でそこまでの道筋をなぞってみると、今いる丘を一度下りて、もう一つのさらに高い丘を登ることになりそうだ。途中で腹ごしらえして行くかな。

オーソドックスなセット、1,200,000トルコリラ也。
 というわけで、丘を下りた大通りの食堂に入ってみる。ここは地元の人たちが利用する安食堂といった感じ。店先に並んでいる大皿をひと通り見て、まわりの人たちが食べているものもチラチラと観察。店員の兄ちゃんに、とりあえずスープ、サラダ、肉、ご飯が食べたいと伝える。テーブル中央にデンと置かれたバスケットに入っているパンをかじりながら待っていると、銀色のプレートにならんだ「定食」がやってきた。豆のスープ、トマトサラダ、トマトソース煮のキョフテ(肉団子)、ピラウ(バター風味のまぜご飯)、どれも薄味で素朴なものなのだが、意外に食が進む。トルコ料理ってけっこう日本人の味覚に合うのかもしれないな。さすがに山盛りのパンは残してしまったが、うーん満足。安食堂といってもなかなか立派なトルコ料理をいただけたぜぃ。

今でも立派に建ってます
 さて食後。先ほど遠くから見たアンカラ城まで行ってみよう。なだらかに続く坂道を登っていったところに緑がいっぱいの公園があった。遠足だろうか、可愛い制服を着たガキどもが芝生の中をギャーギャーと駆け回っている。公園の中にはさらに階段があって、これを汗を吹き出しつつエッチラオッチラ登っていく。するとゴツゴツした城壁が続く道に出た。アンカラ城というのは、ビザンチン帝国時代の要塞だったとのことで、見るからに堅固な城壁。よく見ると、ローマ時代の基礎部分の上に補強工事をしたというのがなんとなく分かる。大きな石でできた部分と、細かい石を積み上げた部分のツートーンになっているのだ。
 城門をくぐると、中は普通の村になっていた。家があり、店があり、子供が遊んでいる。
 昔からこうして城壁の中で暮らしてきた人がひるんだねぇ。一般人が城外に住む「城下町」という形態の街づくりをしてきた国からきた者には、なんかちょっと不思議な感じ。

最上部のお城を見上げる
 村の中を進んでさらに階段を上がると展望台のようなところに出た。どうやらこれより上には登れないようだった。

 ここもまた風と眺めがいい。先ほどの神殿近くの丘からは見えなかった方角も見渡せるので、しばらくここで休憩。

 すると白いほっかむりをしたでぶっちょのおばちゃんが寄ってきて、手にしている白いレースでできた帽子を買え買え、と話し掛けてくる。よくトルコの男たちが頭にちょこんとのっけているような、民族衣装だ。悪いけど、それは要らんわ。しっかし、観光客が来そうなところには、誰かしらこうやって「張っている」もんだ。
 苦手

 城壁を出て公園に戻ると、涼しげな木陰のベンチを発見。こりゃいいやとばかりに靴を脱ぎ、デイパックを枕にして横になってみる。おおっ、快適。

 食って、ブラついて、寝る。

 こんな脳みそが腐りそうな極楽サイクルを、よく晴れた春の午後にやっちゃってんだから、たまらんわ。これぞプー太郎の醍醐味か……。うう、このままだとどんどんダメ人間になってくな……でも気持ちいいんだな、これが…zzz…。


子供たちに捕まった
 どのくらいの時間だろうか、いつの間にか本気で寝ていた。しかし、何やらガヤガヤとまわりが騒がしくなってきて意識が戻ってくる。何、何?と目を開けてみると……、ものすごい数のガキどもがベンチを取り囲んでいるじゃないの。

 うぉぉ、何だよ、何なんだよ、お前ら。

 先ほどの遠足軍団だ。ガリバーじゃないんだぞ、俺は。しかも俺は子供嫌いだぞ。寄るな、コラ。しかしメチャメチャ人なつっこい彼らは、破裂しそうな好奇心を体中の穴という穴から吹き出して群がってくる。俺はジャニーズか? いやいや、首都とはいえども外国人が珍しいらしい。皆、口々に「ヘロー、ワッツヨネム?」を繰り返す。おおっ、こんな小さなうちから英語習ってるのか、すごいな。「アメリカ人? イギリス人?」。ノーノー、どう見てもコテコテの日本人だろーよ。結局ほとんど話は通じないもののしばらく相手をしてしまった。

 誰かー、引率の方ぁー、助けてー。


 確かにローマの名残あり




アウグストゥスはオトコマエだった
 やっとのことで子供たちから解放され、今度は公園の外れにあるアナトリア文明博物館を訪れた。

 打って変わってこちらは静か。さらに、受付のお姉ちゃんが品があってきれいでグー。今まではまるでノーケアだったが、こういった博物館とか、美術館、図書館なんかで働く娘ってのは、それだけで何とも魅力感じちゃうね。今の日本に蔓延する、強欲で下品な女の対極に位置するというか……(もちろん品があって控えめな方もいますが)。別に、かつてひどいのに痛い目にあったというわけではないが、たまに清楚な娘を見かけると、勝手に頭の中で美化してしまいがちである。

 話はそれたが、この博物館、実はなかなか展示品も素晴らしい。古くは紀元前七世紀、狩猟民族の時代から、紀元前二世紀のヒッタイト時代、そしてローマ時代までが各時代順に整然と並んでいる。ヒッタイトとかいう言葉を聞くのはメチャメチャ久しぶりである。確か、鉄器を発明した人たちだったよな。ふーん、この辺に住んだいたのね。

 なかでも目を引いたのは、ローマ時代のコイン。各皇帝の顔が刻まれたコインには番号がふってあって、横にあるリストでそれが誰の顔であるか照合できるようになっている。市民からの支持を重要視していたローマ皇帝たちは、広く市民の間に流通するこのコインに目をつけて、広告媒体として利用していたというから、その政治キャンペーンの歴史の古さには驚きである。
 チャイをたしなむ


チャイは小さなグラスで飲む
 館内をひと巡りした出口付近には、絵はがきなどを売る簡単なおみやげ屋と、ちょっと座ってお茶ができるコーナーがあった。ここでチャイを頼んでひと休みするとしよう。

 いくつかあるテーブルには、飲み終わったチャイのグラスが散乱している。たいして入場客がいないところをみると、きっと客以外にも、ここの職員さんたちが本日何回目かのお茶タイムを楽しんでいたところなのだろう。

 マユゲもトルコに来てからすでに何度かチャイを頂いたが、どこでも同じようなセットで出てくる。これがなかなかかわいくていいのだ。日本酒を飲む「おちょこ」に毛が生えた程度の大きさのガラス製のカップに紅茶が入っていて、それに必ずソーサーと角砂糖と小型スプーンがついてくる。

 角砂糖はたいてい二つ。お茶の量が少ないので二ついれちゃうとアマアマになってしまうから、マユゲの場合いつもひとつだけにしている。左手の親指と人差し指でカップの口をつまみ、右手に持ったスプーンでクリクリとかき回す。この仕種がいかにも「トルコ風ティータイム」って感じでいいのである。しかし几帳面に砂糖が溶けきるまでかき回すのは野暮。クリクリクリクリ、ぐらいでいいのである。そして今度は右手の指でつまんでチビッとやる。いやいやいや、いいじゃないの。ふぅー。熱いお茶を一度にたくさん飲むのではなく、少量を何度かに分けて飲むというのは、実はこの国の、健康的に水分摂取するための知恵なのかもしれないな。

 強烈デザート!


一番右のパイのようなものが「バクラワ」
 ウルス地区を歩き回った後、夕方になってメトロを乗り継いでオトガルへ。アンカラのオトガルもなかなか大くて立派だ。オトガル内のカフェテリアで、夜行バス12時間の長旅に備えて夕食をとる。

 チャナッカレで食べたライスプディングに続き、今回も新しいデザートにチャレンジだ。トルコの代表的な銘菓との呼び声高い「バクラワ」である。甘い具の入ったパイ生地が、これまたさらに甘いシロップに浸されたものである。一口食べてみるが、これが間違えて甘くし過ぎたんじゃないかと思うほど甘い。かなりの甘いもの好きのマユゲでも思わず顔をしかめる。お茶を飲みたくて慌ててチャイジュを探すが、こういう時に限って奴らは現れない。仕方なく先ほど買ったペプシをグビグビッ。うえっ、コーラが苦く感じるよ。やはりこの国、チャイなしでは暮らせない。トホホ……。



2001.05.21 アンカラにて


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